二人分の夕食を作らなくなった夜。50代の父親が旧友に連絡した理由

子どもが家を出たあと、空いた時間をすぐに新しい恋愛で埋める必要はありません。

52歳の誠一は、息子が大学進学で家を出てから、夕食を一人分だけ作るようになりました。最初に変わったのは、気持ちより先に、買い物かごの中身と食卓の静けさでした。

その夜、誠一が連絡したのは、恋人候補でも新しい出会いでもありません。長く会っていなかった大学時代の友人でした。これは、二人分の夕食が一人分になったところから、昔の友人に「久しぶり」と送るまでの話です。

二人分の鶏肉を手に取ってから、一人分に戻した

セカンドデイズ相談
読者役

息子が寮に入ってから、買い物の量がまだうまく変えられないんです。今日も鶏肉を二枚取ってから、一枚のパックに戻しました。

ハル

長く続いた段取りほど、生活が変わっても手だけ先に動くことがあるよね。そのとき、どんな感じがした?

読者役

寂しいというより、「ああ、もう二人分じゃないんだな」と遅れて気づいた感じです。帰って急いで作る理由もなくなりました。

ハル

気持ちの名前を急いで決めなくても、その変化自体を見ていくと、今ほしいものが少しずつ見えてきそうだね。

息子が高校生だったころ、誠一の平日の夕食はだいたい二人分だった。帰宅時間は違っても、冷蔵庫には息子の分を残しておく。翌朝、「昨日の生姜焼き、うまかった」と言われれば、それで十分だった。以前なら、買い物の途中で息子から「牛乳ある?」とメッセージが入ることもあった。今は帰宅時間を気にして時計を見る必要もなく、炊飯器の予約も自分の都合だけで決められる。大学進学で息子が県外の寮へ移ってからも、スーパーではしばらく二人分を基準に手が動いた。鶏肉を二枚取り、ヨーグルトを二つ選び、途中で戻す。生活が変わったことを最初に知らせたのは、感情ではなく、一人分になった買い物だった。 その夜、誠一は小さなフライパンで一人分だけ焼いた。テレビをつけても、食卓に向かって言う相手はいない。「寂しい」と決める前に、毎日の中から会話の相手が一人いなくなったことだけは、はっきりしていた。

食後のソファに座り、スマートフォンへ目を落とす男性

誰かに連絡したかった。でも、恋人を探したいとはまだ思えなかった

セカンドデイズ相談
読者役

職場で「これから自分の時間だな。いい人でも探したら」と言われたんです。そういうことなのかな、と少し考えました。

ハル

恋愛を考えることと、今夜誰かと話したいことは、同じ結論にしなくてもよさそうだね。

読者役

そうなんです。誰かと夕飯を食べられたらとは思う。でも、今すぐ交際を始めたいのかと聞かれると、そこまでは決まっていませんでした。

ハル

それなら、先に「今夜、誰の声が浮かぶか」を見てみてもいいんじゃないかな。

食後、誠一はソファでスマートフォンを開いた。以前なら息子に「帰り何時?」と送っていた時間だった。職場の同僚に言われた「いい人でも探したら」という言葉を思い出し、出会いに関するページを少し眺めた。けれど、プロフィールを作る自分はまだ想像できなかった。休日の予定表も、息子の部活や食事の時間で埋まっていた頃とは違い、白いままの欄が増えていた。その空白を誰かで急いで埋めることと、話したい相手を思い出すことは、誠一の中では少し違っていた。その夜の誠一は、恋愛を始めたいと決めたのではなく、今日あったことを誰かに話したい自分に気づいただけだった。 仕事の愚痴でも、息子の進学の話でも、作りすぎなくなった夕食のことでもいい。相手の肩書きを決めるより先に、誰なら気を張らずに話せるかを考えた。空いた時間に最初から新しい関係を置くのではなく、すでに知っている人を思い出す余地もあった。

連絡先をスクロールして、大学時代の友人で指が止まった

セカンドデイズ相談
読者役

連絡先を見ていたら、大学の友人の名前で止まりました。でも、最後に会ったのは何年も前です。

ハル

長く連絡していないと、用事がないこと自体が送りにくさになるよね。何を書こうとしたの?

読者役

「元気?」だけだと急かなと思って、仕事の話を書いて、消して。息子が家を出たことまで説明するのも重い気がして、また消しました。

ハル

最初の一通で空白の年月を全部説明しなくてもいいよ。会うきっかけだけ渡して、続きは返事のあとでもいいんじゃないかな。

画面に出てきたのは、大学時代によく一緒に定食屋へ行った直樹の名前だった。卒業後もしばらく会っていたが、仕事が忙しくなり、誠一が子育て中心の生活になるにつれて連絡は減った。最後のやり取りは数年前の「今度飲もう」で止まっている。誠一は文章を何度か打ち直した。事情を丁寧に書けば書くほど、連絡すること自体が大げさに見えた。連絡する理由がないのではなく、用事のない連絡を長くしていなかっただけだった。 昔の距離に一気に戻る必要もない。近況が変わっていれば、会わない選択もある。取り戻したいのは昔そのものではなく、今の二人で一度話してみる機会だった。 そう考えると、文章は短くなった。送信欄に残ったのは、近況説明でも相談でもなく、もう一度一緒に食事をするための短い誘いだけだった。

「久しぶり。今度、飯でもどう?」と送った

セカンドデイズ相談
読者役

結局、「久しぶり。今度、飯でもどう?」だけ送りました。送ったあと、少しだけ落ち着かなかったです。

ハル

短いけれど、会いたいことは伝わるね。返事が来るまで、どんなことを考えていた?

読者役

急だったかな、と。でも、返事がなければそれも今の距離なんだと思おうとしました。

ハル

相手の今の生活もあるからね。返事を自分の価値の答えにせず、一通送れたところまでを自分の行動として見てよさそうだよ。

返事はその日のうちに来た。「いいな。俺も最近、昔の連中どうしてるかなと思ってた」。それだけで、誠一はスマートフォンを伏せた。劇的に何かが解決したわけではない。翌週、二人は仕事帰りに駅近くの店で会った。誠一が「息子が出てから、飯が本当に適当になってさ」と言うと、直樹は笑って「俺も一人だと麺ばっかりだ」と返した。話は仕事、大学時代の友人、最近見た映画へと流れた。必要だったのは、新しい誰かに自分を一から説明し直すことではなく、知っている相手にもう一度声をかけることだった。 そして、旧友への連絡は、過去へ戻るためではなく、今の生活に新しい一回を足すための行動になった。 店を出たあと、次の約束をその場で決めなかったことも、誠一にはちょうどよかった。

久しぶりに会った旧友と食事をしながら話す男性

一人分の夕食になっても、暮らしまで一人きりになったわけではなかった

セカンドデイズ相談
読者役

友人と会ったあとも、家に帰れば一人です。でも、前と同じ静けさには感じませんでした。

ハル

家の人数は変わらなくても、「また連絡できる人がいる」と分かったことは残ったんだね。

読者役

息子に前みたいに毎日連絡する必要もないし、だからといって、急いで恋人を作る必要もない。今はそれでいい気がします。

ハル

その順番が、今のあなたには合っていたんだと思う。次に何を求めるかは、暮らしてみてから決めてもいいよ。

それから誠一は、息子への連絡を増やしたわけでも、出会いを探し始めたわけでもない。夕食は相変わらず一人分だ。直樹とも毎週会うわけではない。ただ、ときどき短いメッセージを送り、予定が合えば飯を食べるようになった。空いた時間を、すぐに恋愛の時間へ置き換えなくてもよかった。 誰かとつながりたいと思ったとき、答えが新しい相手とは限らない。その夜の誠一にとっては、長く連絡していなかった友人が先に浮かんだ。彼が最初に取り戻したのは、恋人ではなく、理由がなくても連絡できる友人との時間だった。 息子から届く連絡も、前より少なくてかまわないと思えるようになった。次の日曜日、誠一はカレーを少し多めに作った。二人分ではない。翌日の自分の分を残すためだった。