60代、出会いを急いでいた。アプリの前に入れた、自分のための休日

マッチングアプリに登録するつもりだった金曜の夜、66歳の修司は、手帳に別の予定を書きました。

「日曜十時、川沿いでスケッチ」

誰かと付き合うことを諦めたのではありません。相手が見つかるまで後回しにしていた、自分の楽しみを先に予定へ入れたのです。

60代の再出発を急いでいても、今度の休日まで、出会いの結果を待たせなくてよい。ここでは、アプリの選び方や恋愛がうまくいく方法ではなく、修司が自分の生活へ目を向け直した経緯をたどります。

登録する前に、日曜十時の予定を入れた

セカンドデイズ相談
読者役

今夜こそアプリに登録しようと思っていたんです。でも、先に日曜の予定を書きました。

ハル

日曜には、何をすることにしたの?

読者役

川沿いで、久しぶりに絵を描こうかと。誰と会うかではなく、自分が何をするかを書いたのは久しぶりです。

ハル

誰かを探す予定より先に、自分が過ごしたい時間を書いたんだね。

手帳に書いたのは、出発する時刻と、したいことだけでした。教室へ申し込むのでも、新しい道具を買いそろえるのでもありません。家にあるスケッチブックと鉛筆を持って、近所の川沿いへ行く。昼には帰り、午後はいつもどおりに過ごすつもりでした。

修司には、いずれ誰かと親しくなりたい気持ちが残っています。ただ、その夜はアプリを始めるよりも、前から好きだった時間を一つ戻したくなりました。相手探しを後にしたことと、自分の暮らしを後回しにしたことは、同じではありません。 この日は、交際相手がいなくても決められる予定を、実際に一つ決めています。

もっとも、一人の休日を充実させてからでなければ、出会いを考えてはいけないわけではありません。これは、生活を完璧に整える決断ではなく、今度の日曜の午前をどう使うかという選択です。 部屋の片づけも、先の暮らしへの迷いも、全部は片づいていませんでした。残ったことをそのままにして、描く時間だけを取る。そのくらいの大きさなら、修司にも自分で選べそうだったのです。

新しい相手ができれば、休日も始まると思っていた

セカンドデイズ相談
読者役

離婚して三年です。仕事も家のことも回っているのに、休みになると「早く次へ進まないと」と思ってしまって。

ハル

修司さんの言う「次へ進む」は、どんな状態のことだったのかな。

読者役

誰かと出かける予定があることです。一人で何かをしても、再出発には数えていませんでした。

ハル

日々の楽しみまで、相手ができてからのものになっていたんだね。

少し前から、修司は週三日の仕事を続けながら、新しい出会いを考えていました。平日は用事があれば出かけ、必要な連絡もしています。けれど休日の朝、今日一日をどう過ごそうかと考えると、まず「一緒に行く人がいれば」という言葉が浮かびました。

見たい風景や、気になっている場所はありました。それでも、一人で出かける案はいったん脇へ置き、出会いについて調べるほうを先にします。帰宅後に感想を話せる相手がほしい。それは本音でしたが、いつの間にか、誰かができるまで好きなことを待つ理由にもなっていました。

修司は、自分の楽しみまで、まだ会っていない相手の登場を待たせていました。 ここで見直したいのは、相手を望む気持ちではなく、その気持ちが今ある予定まで止めていないか、という点です。二人で楽しみたいことがあるからといって、同じ景色を一人で見る時間まで取り消す必要はありません。

自分で決められる予定と、誰かと相談して決める予定は、分けて考えられます。 修司の場合、川沿いへ絵を描きに行くのは前者でした。誰にも声をかけずに出かけることを、再出発から外していたのは、ほかならぬ修司自身だったのです。

ひとりの予定を入れたら、出会いを諦めたことになる?

セカンドデイズ相談
読者役

でも、絵を描いて帰ってきても、相手がいないことは変わりません。それでいいのか、まだ引っかかります。

ハル

日曜を過ごすことと、相手が見つかることを、一つの結果にしようとしているのかな。

読者役

趣味に逃げているだけ、という気もするんです。登録を延ばしたら、そのまま何もしなくなりそうで。

ハル

先の自分がどうするかは、今は決めきれないね。今週末は、何をしたい気持ちがいちばん具体的?

読者役

描きに行きたいです。ただ、恋愛はもうしないと決めたわけではありません。

ハル

その二つを、無理に一つの結論へまとめなくてもよさそうだね。

修司が迷ったのは、アプリの操作ではありませんでした。登録すれば前進、一人で趣味を楽しむだけなら足踏み。そういう見方を、自分の中で変えてよいのかが気になったのです。手帳の一行を見ても、出会いを探さなかった時間への惜しさは、すぐには消えませんでした。

この日、アプリを始めないことは、これからも誰とも付き合わないという決定ではありません。 反対に、休日を一つ入れたから、そのあと必ず登録するという約束でもありません。後日考え直す余地を残し、その夜に決める範囲を小さくする。修司が選んだのは、その進め方でした。

ここで「いつかもっと自信がついたら」と、新しい条件を増やす必要もありません。生活を整えることを、恋愛を始めるための合格条件にする必要はありません。 予定のない日があっても、迷いや寂しさがあっても、誰かと親しくなりたい気持ちまで取り下げなくてよいのです。

今すぐ相手探しを始めたい人が、修司と同じ順序を踏む必要はありません。修司も、アプリより趣味のほうが優れていると考えたわけではありませんでした。二つを比べて勝ち負けをつけるより、今度の日曜には何をしたいか。その問いなら、答えは少しはっきりしていました。

決め手は、描きかけの橋が残ったスケッチブックだった

セカンドデイズ相談
読者役

金曜の夜に本棚を整理していたら、昔のスケッチブックが出てきました。近所の橋を描いたページが、途中で止まっていて。

ハル

そのページを見て、何を思ったの?

読者役

もう一度、あそこに座りたいと思いました。誰かを誘うことより、橋の続きを描くことが浮かんだんです。

ハル

今度の休日にしたいことが、相手の予定とは別に見つかったんだね。

本棚から抜いたスケッチブックには、端の折れたページがありました。橋の欄干は途中まで線が入り、その下の川はほとんど白いままです。修司は上手に描けているかを確かめるより先に、あの場所で、水面を見ながら鉛筆を動かしていた時間を思い出しました。

誰かと出かけるようになったら、また持ち歩こう。そう思ってしまい込んだ一冊でした。でも、次のページを開くために、隣に誰かが座っている必要はありません。誰かに見せる予定がなくても、描きたいものは残っていました。 新しい相手ができれば再開する、という順番を、ここで初めて逆にしてみようと思ったのです。

決め手は、焦りがすべてなくなったことではありません。「あの続きを描きたい」という、行き先のある希望が見つかったことでした。修司が選び直したのは、出会い方ではなく、まだ相手がいない休日の使い方でした。 川沿いなら家から行き慣れていて、手持ちの道具で始められます。午前中だけなら、そのあとに残したい家の時間も取れそうでした。

そこで修司は、手帳を開きました。登録するつもりだった夜に、先に書いたのは、誰かを迎える準備でも、自分をよく見せるための活動でもない予定です。一枚を完成させるところまで約束せず、まずその場所へ描きに行くことにしました。

本棚の前で、描きかけの橋が残るスケッチブックを開く男性

修司が、この休日だけ決めたこと

項目 決めた内容
したいこと 近所の川沿いで、描きかけの橋の続きを描く
時間 日曜の十時に出かけ、昼までに帰る
持ち物 家にあるスケッチブックと鉛筆
まだ決めないこと 絵の完成、次の休日の予定、アプリの登録日

これは修司の予定です。同じ時間や場所を選ぶ必要はなく、家で読みかけの本を開くような過ごし方でもかまいません。予定を一つ入れても、休日を全部埋めるところまで考えなくてよいのです。

描き終えなくても、昼には自分の予定で帰った

セカンドデイズ相談
読者役

日曜は描きに行きました。でも途中で、「誰かとこの景色を見られたら」とも思ったんです。

ハル

一人で来てよかった気持ちと、誰かと見たい気持ちが、両方あったんだね。

読者役

はい、絵も途中だったけれど、お昼には帰りました。一人で楽しめる自分になれた、というほどの話でもなくて。

ハル

大きく変わったことにしなくていいよ。その日にしたかったことは、少しできたかな。

日曜の朝、修司はスケッチブックをかばんへ入れました。川沿いのベンチに座ると、見覚えのある橋を見上げ、手元のページへ目を戻します。水面を描こうとしていたはずが、欄干の細い線ばかりを何度も引き直しました。ときどき風で紙が浮き、空いた手で押さえました。

隣を歩く二人連れを見て、こんなふうに出かける相手がほしいと思う瞬間もありました。出発前の迷いが嘘になったわけではありません。寂しさが残っていても、自分で選んだ時間まで無意味になるわけではありません。 修司はその場で誰かを探そうとはせず、もう少しだけ、橋の続きを描きました。

昼が近づくと、絵は途中のまま片づけました。完成していないから失敗、楽しく過ごせたから恋愛の準備ができた、という採点はしませんでした。川沿いで描く時間を取り、帰りたい時間に帰った。その日の予定は、そこまでです。帰宅してすぐ、次の休日を埋めようともしませんでした。

次の出会いにつながらなくても、この休日は修司のための予定でした。 アプリに登録するかは、まだ決めていません。ただ、また描きたくなったときに手を伸ばせるよう、スケッチブックを本棚の奥ではなく、机の端へ置きました。描きかけの橋の先は、白いままでした。

川沿いのベンチで、橋を描く男性

別の迷いが残ったときに

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