「この年まで独身なのだから、何か理由があるのだろう」。そんな見方をされると、仕事、家族、自分の性格の中から、相手が納得しそうな答えを探したくなるかもしれません。
けれど、結婚したことがないという事実だけでは、結婚に至らなかった経緯や、その人の性格までは分かりません。自分でも説明しきれない部分があるなら、一つの原因にまとめずに残しておけます。
この記事は、50〜70代で未婚であることに引け目を感じ、自分をどう捉えればよいか迷う人に向けたものです。ここでいう未婚は、これまで結婚したことがない場合を指します。思い当たる出来事と、そこに付けられた説明を、短い相談例から確かめていきます。
「仕事一筋だったから」は、いつの話なのか
以下は、結婚歴のない62歳の女性、郁子さんを想定した仮の相談例です。以前の同僚と昼食をとったとき、結婚歴がないと知った同僚から「仕事一筋だったからね。結婚より仕事を選んだんだね」と言われました。二人が一緒に働いていたのは三十代の頃で、その後の暮らしを詳しく話し合ったことはありませんでした。

忙しかったのは本当です。でも、「仕事を選んだ」と言われると、少し違うんです。
仕事が特に忙しかったのは、いつ頃?
三十代です。四十代には、結婚を考えて紹介を頼んだこともありました。
同僚が知っているのは、仕事の忙しかった頃の郁子さんです。その一時期から「結婚より仕事を選んできた人」と捉えると、後になって結婚を望んだ時期が抜け落ちます。
ここで確かめたいのは、仕事が大切だったかどうかだけではありません。「その説明は、どの時期まで言い表せているのか」ということです。三十代の事情を話す言葉と、六十代までの経緯を話す言葉は、同じでなくてよいのです。
当時の事情が一つ分かることと、未婚の理由が全部分かることは別です。
言われたことと、確かめられることを並べてみる
「仕事一筋だったからね」と言われたのは、例の中で起きた出来事です。ただし、その言葉に含まれる説明まで正しいと確認されたわけではありません。「言われた事実」と「言葉の中の推測」を、いったん別に置いてみます。
郁子さんの相談で分かっている範囲を整理すると、次のようになります。
| 情報の種類 | この相談例での内容 |
|---|---|
| 本人が覚えている事実 | 三十代は仕事が忙しく、四十代には結婚を考えて紹介を頼んだ。 |
| 他人の推測 | 結婚より仕事を選び続けたことが、今まで未婚だった理由だという説明。 |
| まだ分からないこと | 仕事以外に何が影響したか。別の選択をしていたら結婚していたか。 |
これは未婚の人を分類する表ではなく、この例にある情報を確かめるための整理です。本人の記憶も、覚えている範囲までにとどめます。紹介を頼んだという話だけでは、その紹介がどう進んだかまでは分かりません。
自分のことを考えるときは、気になった説明を紙に一つ書き、その下に「どの出来事から、そう思ったのか」と添えてみる方法があります。「理想が高かったから」と思うなら、いつ、どんな希望が合わなかったのか。具体的な出来事が浮かぶかどうかを見ます。

ある相手と住みたい場所が合わず、結婚の話を進めなかったのなら、振り返れるのはその一件です。それを「自分は誰にも合わせられない人間だから」とまで広げるには、別の根拠が必要になります。結婚歴がないことを、性格についての説明の証拠にしない、ということです。
その選択に後悔が残っていても、後悔を消す必要はありません。一方、「あのとき違う返事をしていれば、必ず結婚していた」という結末までは確かめられません。今感じている痛みと、実際には起きなかった人生の予想は、同じものではありません。
未婚率や理由の調査から、自分の答えは出せるか
未婚の人の割合は、ある集団の中に未婚の人がどれだけいるかを表すものです。それだけで、一人ひとりがなぜ結婚していないかは分かりません。理由を尋ねた調査を読む場合にも、誰に、いつ、何を聞いたかを確かめる必要があります。
資料の対象を確認する例として、国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査(2021年)を見てみます。独身者調査の単純集計表には、一部を除いて集計対象が35歳未満の未婚者であると明記されています。「独身者調査」という名前だけを見て、50〜70代の事情を示す表だと受け取ることはできません。出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査・独身者調査の単純集計表」の「結果表利用上の注意」。

仮に自分と同年代を対象にした調査でも、多く選ばれた理由が、そのまま自分の理由になるわけではありません。回答の分布と、自分が経験した出来事は、照らし合わせる材料が違います。
「同じ立場の人がいる」と感じるきっかけに数字を読むことはあっても、人数の多さを、自分の暮らしを認める条件にしなくてよいでしょう。少ない側だったら、自分への説明が必要になる、という話でもありません。
「独身の人の性格」といった言葉に自分を当てはめるときも、結婚歴以外のどの事実がその判断を支えているかを見ます。集団の数字を持ち出すだけでは、その問いへの答えにはなりません。
大きな理由が思い当たる人は、そこから話せる
「結婚を望んでいなかった」「あの事情が大きかった」と本人が捉えているなら、その理解から話せます。無理に複数の原因を探したり、他人の納得する理由に置き換えたりしなくてよいのです。
「結婚したかった」という思いが残っている人に、「本当は一人が好きだったのでしょう」と言い換えることもできません。本人が望んでいたことと、実際にそうなったかどうかは別だからです。独身でいる理由を、必ず前向きな選択として語り直す必要はありません。
自分で納得していることは話せますし、納得できていないことまで整えて話す必要はありません。理由を話さないことと、結婚歴について事実と違うことを言うことは別です。
過去の答えが出なくても、今の自分の話はできる
以前は結婚したかったけれど、今は同居を考えていない。反対に、長く結婚を望んでいなかったけれど、最近は誰かと暮らすことを考える。どちらも成り立つ説明です。今の希望に合わせて、過去まで同じだったことにしなくてよいのです。
郁子さんの場合にも、これまでの理由が説明しきれなくても、今どうしたいかは話せます。たとえば、同居は考えていないけれど、ときどき誰かと食事をしたいと思っているなら、その希望から考えられます。今は交際を望まない、まだ分からない、という答えも残せます。

人に理由を聞かれたときには、自分が言えるところまで伝える方法があります。結婚を望んだ時期はあっても、理由を一つに説明できない場合の返答例なら、「結婚したいと思った時期もありました。でも、一言では説明しにくいですね」。詳しく話したくなければ、その話を続けないことも選べます。相手を納得させる別の理由を作る必要はありません。
これから恋愛を考えたいのに年齢へのためらいがある場合は、「今さら恋愛なんて」と感じるときの、年齢・家族・世間体の整理で、気になっていることをもう少し具体的に考えられます。
誰かへの説明を用意する前に、自分に向けた「だから私はこういう人間なのだ」という一文を見直してもよいでしょう。残るのが「まだうまく説明できない」でも、そこで今日は考えるのを終えられます。