条件は合うのに、二度目は会いたくない。離婚後の出会いで断った理由

この物語はフィクションです。

二度目は、会わない。

五十六歳の直樹は、スマートフォンに届いた誘いを読み、そう決めた。返信欄には「来週は少し忙しくて」と打ちかけてある。来週の土曜は空いていた。

住む場所も、休日も、これからの付き合い方も、話した限りでは合っていた人だった。今日の昼には、向かい合って笑ってもいた。

直樹はその一行を消し、いったんスマートフォンを机に置いた。

会う前に、暮らしの話はできていた

直樹は離婚して三年になる。離婚後に初めて交際した相手とは、半年前に別れていた。平日は勤めに出て、週末に洗濯や買い物をする。暮らしは回っていたが、外で食事をした帰りに、もう少し話していたいと思える人はほしかった。

知人の岡田から連絡先を取り次いでもらった美穂は、五十四歳だった。同じ沿線に住み、平日は働いている。美穂にも離婚歴があった。何度かメッセージを交わすうち、会えそうな時間の話になった。

「平日は帰りが遅いので、会うなら週末がいいです」

美穂からのメッセージに、直樹は返した。

「僕も土日のほうが動きやすいです」

「すぐに結婚を決めるより、食事をしながら知っていけたらと思っています」

「僕も、まずはそんなふうに会えたらうれしいです」

直樹が今の町で仕事を続けたいと書くと、美穂も引っ越す予定はないと答えた。遠くまで通ったり、すぐに住まいを一つにしたりする話ではなかった。

次は長く続く関係になってほしい。会う日の朝、直樹は青いシャツを選び、鏡の前で襟を直した。

待ち合わせた洋食店で、美穂はメニューを開いたまま待っていた。直樹が迷っていると、「私は決まったので、ゆっくりどうぞ」と言った。

洋食店でメニューを選ぶ男性と、向かいで待つ女性の生成画像

食事が来るころには、仕事帰りに寄る店の話から、休日に見る映画の話へ移っていた。好きな作品は違ったが、最後まで起きていられなかった深夜の番組の話で笑った。直樹は肩の力を抜き、コップに手を伸ばした。

二人で持っておくつもりの写真だった

食事のあと、二人は駅前の広場へ出た。背の低い木のそばで、美穂がスマートフォンを取り出した。

「せっかくだから、一枚撮りませんか」

直樹はうなずきかけてから、一言添えた。

「いいですよ。ただ、ほかの人には送らないでほしいです」

会って間もない相手との写真が、人に渡ることにはためらいがあった。岡田には会ったことを報告するつもりだったが、まずは自分の言葉で話したかった。

「もちろん。二人で持っておきましょう」

美穂がそう答えたので、直樹は隣に立った。画面に入ろうと少しかがむと、美穂が腕を伸ばした。広場の木が、二人の後ろに小さく入った。

駅前の広場で並び、女性が伸ばしたスマートフォンへ顔を向ける二人の生成画像

「少し近すぎたかな」

美穂が写真を見せた。直樹の顔は少し硬かったが、口元は笑っている。

「大丈夫です。ありがとうございます」

「送りますね」

直樹のスマートフォンにも写真が届いた。自分の画面で開いてから、上着のポケットにしまった。

「紹介してくれた人だから」と言われて

駅へ歩き出してすぐ、美穂が足を止め、スマートフォンに目を落とした。

「岡田さんにも送っておきました。無事に会えましたって」

「今の写真もですか」

「はい。楽しそうに撮れていたので」

直樹は、かばんの持ち手を持ち替えた。

「さっき、ほかの人には送らないでほしいと話したんですが」

美穂は顔を上げた。

「岡田さんなら、いいでしょう。紹介してくれた人ですし」

「岡田さんにも、送ってほしくなかったです」

「そんなに気になります? よく撮れていたのに」

「写りのことではなくて。送る前に、聞いてほしかったです」

美穂はしばらく画面を見てから、言った。

「じゃあ、ほかの人には見せないでって、岡田さんに言っておきますね」

「お願いします」

美穂はスマートフォンで文字を打ち始めた。直樹は隣で待った。岡田が写真をどう扱うかは、直樹には分からなかった。

かばんを持って待つ男性の手と、隣でスマートフォンに入力する女性の手元の生成画像

駅の入口はすぐ先だった。美穂が歩き出すと、直樹も続いた。昼食のときに出た映画の題名を思い出そうとして、途中でやめた。

改札の前で、美穂は通りの向こうを指した。

「あのお店もおいしいんですよ。今度はあちらもいいですね」

直樹は店の看板を見たあと、美穂に向き直った。

「今日はありがとうございました」

次に会う日は決めず、それぞれのホームへ向かった。

もう一度、会って確かめるか

帰りの電車で、直樹は届いた写真を開いた。二人とも、ちゃんと笑っていた。昼食が楽しかったことまで、なかったことにはできなかった。

一度会っただけで断るのは、早いのだろうか。二度目なら緊張がほどけて、違う話ができるかもしれない。直樹も、初対面では言いたいことをうまく話せないときがある。

窓に視線を移すと、建物の間から短く空が見えた。直樹は座席の背にもたれ、スマートフォンを膝に置いた。

帰りの電車でスマートフォンを膝に置き、窓の外を見る男性の生成画像

美穂が写真を送る前に「岡田さんには送ってもいいですか」と聞いてくれたなら、直樹はどう答えただろう。やはり、今日は自分から報告したいと伝えたと思う。

「岡田さんにも」とまで言ったのに、さらにどう言えばよかったのか。そんなことを考え始めて、直樹は息をついた。

次に会う場面を思い浮かべると、まず今日の写真の話をし直している自分が浮かんだ。別の店で食事をすることより、その説明をもう一度することのほうが気にかかった。

もう少し美穂を知りたい、という気持ちを探してみた。思い浮かぶのは、住む場所も休みも合うのだから、ここで終えるのは惜しい、ということだった。

電車が最寄り駅に着くころ、美穂からメッセージが届いた。

「今日はありがとうございました。来週の土曜も、会えますか」

直樹は返事をせずに、いったん画面を閉じた。

「また今度」は書かなかった

夜、直樹は机に置いたスマートフォンをもう一度取り上げた。返信欄の空白をしばらく見てから、文章を打った。

今日はありがとうございました。次のお誘いは、お断りします。写真を送らないでほしいと伝えたあとのやり取りが気になっていて、またお会いしたい気持ちにはなれませんでした。

読み返すと、断っていることがはっきり分かった。それが気になり、もう少し曖昧な文章にしようかと指を動かした。でも、「また今度」とは足さなかった。

送信しても、気分が晴れたわけではなかった。椅子に掛けた上着を見ながら、これで連絡が途絶えるのかと思った。

岡田への報告も、まだだった。今夜すべてを説明する文章までは書けず、直樹はスマートフォンを充電器につないだ。美穂からの返事は、まだ来ていなかった。

着替えを済ませてから、腕時計をまだ外していないことに気づいた。直樹は時計を外し、ベルトをまっすぐにして、机の端へ置いた。

自分が大切にしたいことを、言葉にするなら

これからの関係で何を大切にしたいか考えるときは、生活場面から価値観を整理する記事へ。休日や連絡、予定が変わった日などを手がかりに、自分の希望を書き出せます。