恋人の話は聞きたいし、二人で会う時間もほしい。それでも、相手の家族の用事まで引き受けられるとは限りません。お互いに親の介護がある交際では、「こうしたい」という気持ちと、今の暮らしで実際にできることを確かめてから返事を考えてみませんか。
以下の相談と文例は、話し合いを考えるために作成した例です。
「お茶の前に、父の買い物も」と誘われて
63歳の恵子さんと65歳の誠さんは、交際を始めて二か月。それぞれ別に暮らし、恵子さんは母親の買い物や通院の付き添いを、誠さんは父親の暮らしの用事を手伝っています。家族のことを気にかけながら会う事情は、互いに話しています。
ある日、誠さんから「今度の土曜、お茶の前に父の日用品を買うの、付き合ってくれない?」と連絡が来ました。恵子さんは、母親の買い物メモの横にスマホを置き、返事を考えています。

母の買い物だけで手いっぱいの週もあります。でも、誠さんに会うのは楽しみなんです。家族のことで忙しいのはお互いさまだから、断ったら冷たいと思われるでしょうか。
一度行ったら、次も一緒にすることになるのかな、とも考えてしまいます。まだ返事はしていません。
この相談では、まず、頼まれた買い物がどんな用事なのかを確かめたいところです。一緒に店へ行くことなのか、買って父親の家へ届けることまでなのかで、引き受ける内容は変わります。
口頭なら、「買い物って、一緒に選ぶところまで? お父さんの家へ届けるところも?」と聞けます。続いて、「今度の土曜だけの話? これからも一緒に、というつもりかな」と尋ねれば、一回の誘いと今後の頼み事を分けて話せます。
今回頼まれたことと、今後も頼まれるかという心配を分けて聞いてみます。一方、内容にかかわらず手伝いたくないと決まっているなら、詳しい事情を聞き出してから断る必要はありません。
話を聞く時間、二人の時間、家族を手伝う時間
恵子さんが残したいのは、誠さんとゆっくりお茶をする時間です。誠さんの大変さを気にかける気持ちもあります。その二つを伝えることと、父親の買い物を引き受けることは、別々に考えられます。
| 話したいこと | 自分に確かめること |
|---|---|
| 相手の話を聞く | 今は聞きたいか、聞く余力があるか |
| 二人で過ごす | 会う日に何をしたいか、何時までなら過ごせるか |
| 家族の用事を手伝う | その用事をしたいか、移動も含めて引き受けられるか |
例えば、誠さんが家族の話をしたいと言ったとき、恵子さんに聞く余力があれば、「今なら少し話せるよ。聞いてほしいことがある?」と返せます。疲れている日は、「今日はもう休みたいから、その話は聞けそうにない」と伝える選び方もあります。次に聞く日まで、その場で約束する必要はありません。
手伝いを断った埋め合わせとして、いつでも話を聞く約束をしなくてかまいません。
「私のほうが大変だから」「同じ経験があるなら分かるはず」と、負担を比べて相手の希望を退ける話にもしないようにします。恵子さんはお茶をしたい。誠さんは買い物を手伝ってほしいかもしれない。両方の希望を聞いたうえで、できる返事をそれぞれが選びます。
買い物を手伝うか、今の気持ちから返事を選ぶ
ここからは、恵子さんの希望と余力に応じた返し方の例です。引き受ける返事だけが、相手を大切にする答えではありません。会える時間が空いていても、その時間を休息や二人の外出に使いたいことはあります。
手伝いたくない、または引き受ける余力がない
まずは、今回の用事への返事を短く伝えます。
「土曜の買い物には一緒に行けないんだ」
理由を聞かれ、説明したい場合には、「母の用事もあるから、今はほかの家族の買い物まで引き受ける余力がない」と補足できます。病状や予定の詳細を並べて、断る理由を証明しようとしなくてもよいでしょう。
断る返事に、別の日の手伝いや新しい役目を添える必要はありません。二人で会う予定をどうするかは、用事への返事とは別に相談します。
まだ決められない
今の時点では、手伝う人として予定に入れないでほしいことを伝えます。
「土曜に行けるか、まだ決められない。私が一緒に行く前提では、予定を決めないでほしい」
自分から返事をする時点を決められるなら、「木曜の夜までには返せる」と添えられます。その場合も、誠さんが木曜まで待てるかを確かめます。返事の時期も決められなければ、「今回は引き受ける約束はできない」と返すところで止められます。
「考えておく」や未返答は、手伝いを引き受けた返事にしません。 「大丈夫」だけ返ってきたときも、何について大丈夫なのかを確かめます。「買い物は一緒に行かず、お茶だけで会う、ということでいい?」など、その場の内容を言葉にして返事を待ちます。
今回は手伝いたいし、できそう
例えば、恵子さんはその土曜の午後に余裕があり、日用品を一緒に選ぶことなら自分もしたいと思ったとします。店へ行く時間と帰りの移動を見込み、自分の母親の用事や休息にも無理がないか確かめたうえで、こう提案できます。
「今度の土曜、駅前の店で一緒に選ぶところまでなら行きたい」
具体的な時間や、その先の用事は続けて相談します。
恵子:「一時から三十分くらいなら大丈夫。お父さんの家へ届けるところは、誠さんにお願いしたい」
誠:「それなら助かる。会計と、父のところへ届けるのは僕がするよ。来週も、というつもりではないよ」
恵子:「じゃあ今回は、一緒に選ぶところまで。お父さんもそれでいいか、先に聞いてもらえる?」

この段階で分かるのは、二人の希望が合う部分です。父親がその手伝いを望むかは、まだ確認できていません。誠さんから、恵子さんが買い物に加わることや、希望する品の情報を伝えてよいかを父親に確かめてもらいます。望んでいなければ、この手伝い案は見送ります。
今回の案では、恵子さんは父親の家を訪ねません。あとから「家まで届けてほしい」と頼まれたら、恵子さんがそこまでしたいか、時間が取れるかを改めて考えます。父親への訪問や立入りの確認も別に必要です。二人の了承だけで訪ねたり、父親の暮らしの支え方を変えたりはしません。
話し合いのために、詳しい病状・資産・住所を一度に共有する必要もありません。今回することに必要な情報を、家族がどこまで伝えてよいと考えているか確かめます。
一度の買い物を引き受けても、次回や別の用事は、その都度の相談です。この例は日用品の買い物についてのやり取りであり、身体介助などまで同じように代われるかを判断するものではありません。
「手伝おうか」と言ったら、相手の希望を聞く
別の日に、恵子さんから手助けを申し出る場合も考えてみます。そのときは、誠さんがその手伝いを望んでいるか、返事を聞いてから進めます。
恵子:「今度の日用品の買い物、一緒に行こうか」
誠:「ありがとう。でも今回は、一人で済ませたいんだ」
恵子:「分かった。買い物には行かないね」
相手が断ったあとに、「遠慮しないで」と予定を決めたり、直接父親へ連絡して話を進めたりはしません。「それなら助かる」という返事でも、何を頼みたいのかを聞き、家族に関わる確認を済ませてから決めます。
また、以前こちらが助けてもらったことがあっても、「今度は私が同じだけ」と先々の用事を約束しなくてかまいません。お礼を伝えることと、次の手伝いを引き受けることは別の話です。頼む側も「この前やったから」と返事を求めず、今できるかを尋ねます。
引き受けた用事を変えるときは、相手に連絡する
まだ返事をしていない用事と、すでに約束した用事では、必要な連絡が違います。ここからは別の例として、恵子さんが金曜に誠さんの父親の日用品を店で受け取り、その夕方に誠さんへ渡す約束をしたあと、行けなくなった場合を考えます。
変更を伝えるメッセージは、用事と、できなくなったことから書けます。
「金曜の日用品の受け取りに行けなくなった。約束を変えたい。注文の控えは手元にあるので、受け取りをどうするか確認したい」
誠さんが代わりに受け取りに行けると返事した場合は、受取場所と期限を一緒に確かめ、必要な控えを渡します。父親への予定変更の連絡が必要なら、誰が伝えるかも確認します。恵子さんがすでに品物を預かっていれば、それをいつ、どう渡すかも決めます。

返事がない、代わりに行く人が決まっていない、といった段階は、引継ぎが済んだ状態ではありません。連絡がついていなければ、いつまでに受け取る必要があるかも添えて連絡します。誠さんにも対応できない場合は、普段その用事に関わっている人へ、誰から相談するかを話し合います。恵子さんが行けないことは変えずに、終わっている準備と、まだ決まっていないことを伝えます。
今後も続けると決めた手伝いをやめたい場合には、「いつから変えたいか」「すでに約束した分はどうするか」を分けて話します。気持ちが変わったことを自分の中だけで決着させず、相手が予定を組み直せるよう、変更と引継ぎを相談する場面です。
今回は、二人でお茶をする時間を取りたい
冒頭の相談で、恵子さんがまず伝えたかったのは、二人でゆっくり会いたいという希望でした。その気持ちから、次のように返すこともできます。
「土曜は買い物には行かず、二人でお茶をしたい。それだと、会うのは難しいかな」
誠さんが「その日は買い物だけで時間がなくなりそう」と返したら、今回は会う予定を見送ることもあります。恵子さんが手伝いを引き受けて、会う時間を作ると決めなくてもかまいません。
お茶だけで会えると二人の希望が合えば、その予定を決める。まだ返事が出なければ、会う予定も保留のままにする。今回の買い物に行くかどうかの返事で、これから先の家族の用事まで約束しなくてよいのです。